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	<title>Novel</title>
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	<description>日常の中の非日常にようこそ</description>
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		<title>01.despairingly</title>

		<description>こんなにも自分が無力だと思う瞬間がある…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ こんなにも自分が無力だと思う瞬間があるだろうか。　
あのとき、もっと慎重に考えていればこんなことにならなかったのではないか、と。

01.despairingly

「またか」
午後十時ちかく。ビジネス街の一角にパトカーが止まっている。立ち入り禁止の黄色と黒のテープを張りめぐらせ、集まり出した野次馬達を警察官が職務をまっとうしている。
ブルーシートをめくり、ビジネススーツに長身の30代半ばの男とまだ警察バッチが真新しい青年が入ってきた。
「お疲れ様です。佐伯さん」
佐伯と呼ばれた刑事は視線だけを向け、
「おう、北村か。それと…誰だっけ？」
「ちょ、佐伯さんひどくないッスか！狗塚郁（イヌヅカ　カオル）ですよ」
青年は頬を膨らます
「ははは、悪い。わんこ」
「わんこじゃないです。狗塚です」
そんな二人のやりとりを聞き流しながら北村は遺体のシートをめくった。
「‟また‟変死体ですか」
「遺体には抵抗した形跡なし。ビルとビルの間の視覚だったので発見が遅くなったそうだ。第一発見者は女子大学生で、飲み会の帰りで嘔吐した時に発見したとか。気持悪さでさらに嘔吐したとか…おっと失礼」
佐伯は近くで事情聴取を受けている女子大学生を見た。長い巻き髪にまだ幼さが残った容姿と女の子らしい服装の彼女はベンチに座り、女性警官に聴取を受けていた。
「遺体のほうは」
北村が佐伯に問う。
「高見澤　隆則。有名ホストクラブのナンバーワンホストらしい。巧みの話術で女から人気が高かったんだと。仕事場で聞いたところ昨日の夜から行方が分からなかったそうだ。そんな男が死体で見つかるとはね」
「もし死亡時刻が昨日だとしても、腐敗が早くないですか」
狗塚は遺体に近付いたが、一番腐敗が進んだ箇所を見てしまい嗚咽しそうになる。
「郁。吐くなら遠くいけ」
「大丈夫ッス…こんなのへっちゃらで…う、げぇぇぇ…」
「わんこが吐いたぞー」
佐伯は狗塚の背中をさすりながら、にやにやしながら北村を見る。
「いやー、新人の指導係は大変ですな。北村」
北村は深いため息をついた。

～　警察庁内　～

捜査会議が終わり刑事達が会議室からぞろぞろ出ていく。
他の刑事と同じく会議室を出て、廊下を歩く二人
「すいません、猿間さん。スーツ貸して頂きまして…綺麗に洗って返します」
「…ゲロ吐いたスーツと一緒に洗うなよ」
「わ、わかってますよ！ちゃんとクリーニング屋の人に洗ってもらいます。それにしてもほのかに煙草の匂いが…」
狗塚はスーツをくんかくんかと嗅ぐ。北村は先日健康診断で煙草のドクターストップを受けていたと話していたが
「犬かお前は」
北村は狗塚の頭を軽く叩いた。
「猿間さん、いつ吸ったんですか！俺が便所行ったときですか？俺が寝静まったときですか？」
前を歩いていた佐伯がにやにやしながら顔だけ振り向く。
「なになに、お前ら先輩と後輩の関係から違う関係にでもなったのかな～？」
「佐伯さん。冗談でも言って良いことと悪いことが…」
「まぁ、まぁ。そんな怒るなよ北村。整った顔が台無しだぞ」

北村　猿間（キタムラ　エンマ）は刑事課一係刑事で、冷静かつ沈着で上からも一目置かれている。
容姿端麗で背も高く女性人気が高い。一応狗塚郁の先輩であり、指導係でもある。
刑事課一係と言っても班があり、北村・狗塚は佐伯班に所属している。
「そうだ。お前ら二人にご指名だ」
佐伯は歩みを止め、二人に告げる。
「女子大学生の警護」
「鹿山　真由（カヤマ　マユ）ですか。どうしてですか」
北村は佐伯に問う。
「それが、次の被害者が彼女の可能性があるんだよ」
「可能性があるって？」
狗塚は首を傾げるのを横目にしながら、佐伯は言葉をつづけた。
「第一の事件覚えてるか」
「大手薬メーカーの研究者でしたか。四肢が変な方向に曲がってた変死体で発見されたとか。第一発見者はキャバ嬢で…第二の事件の被害者でしたね」
北村は気づいたように佐伯のほうをみる。
「これはまだお前らに伝えてなかったんだが、今回遺体で見つかった高見澤は第二の被害者の恋人で、彼女のアパートで風呂場の中で亡骸を発見したそうだ」
「風呂場で見つかったのは首以外で。首のほうはまだ見つかってないんですよね」
狗塚はケロッとしながら遺体の発見された様も言った。
「…ワンコお前遺体見たときは嘔吐するくせに、遺体の状態は言葉は簡単に吐けるんだな。おっさん関心しちゃった」
「佐伯さん有難うございまッス！！あと俺狗塚です」
北村は静かに口を開く
「…今回の高見澤は、第一第二の事件とは何だか違いましたね。仰向けの状態に両手を胸の位置にクロスしていて。まるで神さまにお祈りでもしてたようなカンジで」
「クロスしてた手だけが他の部位と違って綺麗なままでしたよね。顔なんて骨が見えて…う、なんか思い出したら吐き気が…すいませんトイレ行ってきます」
狗塚は小走りで男子トイレに駆け込む。
「それで、彼女が次に狙われると」
「可能性な。今の段階じゃ異常な犯人の目星も付いてない。今は可能性でも被害者になりそうな彼女を守るしかないんだよ。だから一番信用できるお前に頼んでんだ北村」
佐伯は北村の肩に手を置き、小さく笑った。

最近ひらかれた飲食街もさすがに店を閉じ、あたりはひっそり静まりかえっていた。
街灯も少ないこの道は殺人犯にとっては絶好ポジションなのかもしれない、それも女なら尚更だと狗塚はふと思った。
「鹿山さん、いつも帰り道はこの道を使っているんですか」
「はい、私1年前に地元から離れてこの街に来たので、当時お金がなくて安くて自炊できるアパートが今住んでるところしかなかったんです」
「1年前ですか、お引っ越しはされないんですか？」
「住み慣れてしまって引っ越しもあまり考えていないので…」
会話がそこで途切れてしまい、再び辺りは静まりかえった。
北村は署を出てから一言もしゃべらず一歩後ろを歩いている。
佐伯は彼女が狙われるのは可能性だと言っていたとはいえ、こんなにも立て続けに殺人が起こっていれば彼女が狙われる確率は高い。いつ、どこで、彼女と殺人鬼が出くわすかわからない状態の中沈黙が続く。
「鹿山さん、君にひとつ質問がある」
北村が立ち止り、彼女と狗塚は歩みを止める。
「はい。なんでしょう」
「あのとき、君は飲み会の帰りだと言っていたね」
「ええ。飲み会の帰りで自宅に帰るためあの道を通ったんです」
「女性が一人あの夜道をね。しかもあんなビルとビルの視覚になった遺体を発見するなんて偶然にしてはおかしくないか？」
「猿間さん。彼女がビルの間に入ったのは偶然じゃ、」
「じゃあ、なんで倒れてるのが死体だってわかった？昼間でも薄暗い場所なら夜になればなおさらだ。それに死体が発見された場所と君が今帰ろうとしているアパートは逆方向だ」

ソレは静かに音も立てず起こった。左脇腹にじわっと広がっていく痛み。
「あーあ、こんな簡単なミスするなんて美味しい匂いに惑わされたのかな。まぁ、いっかそろそろ私もおなかすいちゃった」
痛みの場所へ視線を落とすと脇腹に刃物もように突き刺さる彼女の手。
「郁。左に反れろ」
北村の声と銃声。
狗塚は左に反れると同時に脇腹に刺さる手も離れる。狗塚は痛みで声にならぬまま崩れ落ちる。
銃声は彼女の血まみれの手をかすめるだけだった。
「いきなり発砲って、今時の警察は怖いな~、ちょっとじっとしててよ。順番に食べてあげるからさ」
彼女は地面を蹴り、北村の腹に一撃をくらわせる。北村は受け身が取れぬままコンクリート壁に飛ばされる。
「あ、そうそう。ここ大きい音だしても誰も来ないよ。人がいない場所選んだんだから」
彼女はケタケタと笑う。
「げほっ、お前、人間じゃないのか」
「人間…なのかな。自分でも判んないや」
「ここ最近の事件はお前の仕業か？」
「事件？ああ、あのホストと研究員を殺したのは私よ。でもあの女殺したのはあのホストでしょう？」
脇腹から血がどんどん流れ、意識が遠のきそうになりながら彼女を見つめる。
「学生だったこともあるけど、こっちに越してきてから本当にお金がなかった。そのとき大手薬メーカーの研究員からサンプルを飲むだけのバイトをしないかって誘われたの。一粒20万もくれてそこそこ生活も安定したわ。
でも、体の異変もどんどん出てきていつの頃か体が意思と関係なく動くようになった。研究員を殺したのは衝動が抑えられなくなったからよ」
彼女の話はこうだ。研究員を殺したところを第二の被害者に目撃され、逃げるようにその場を離れたらしい。幸い顔は見られてはいなかったそうだが人を殺した感覚と人に見られたという事実に耐えられず、第二の被害者の身元と場所、交友関係まで調べ、毎日ストーカーじみたことをしていたとのこと。そして第二の事件が起こった。事の発端はカップル同士痴話喧嘩がエスカレートし男が女の首を絞め殺害したらしい。
「それで、彼女の首は。現場には、なかったはずだ」
「食べちゃった。風呂場で溺死体のように見せかけようとしたから、男の目を盗んで彼女の首だけ食べたの。だって溺死体なのに首に絞めたあとが残ってたらだめでしょう？」
その頃から彼女の衝動は人を捕食する感覚に変わっていったそうだ。狗塚は意識が少しだけはっきりしてきたのか左胸ポケットにある拳銃を探す。
「人を食べると記憶まで自分の中に入ってくるみたい。だから高見澤　隆則を殺したのはあの女の復讐ってやつ？顔を重点的に潰したりしたんだけど…食べる気にはならなかったわ。さて、お話はこれでおしまい。もうイケメンの刑事さんのこと食べていいよね？　」
彼女は北村の顎を手でくいっと上げる。
「それは、無理、だな。うちの新人はまだ刑事と、しては頼りないが、銃の腕だけはピカイチなんだよ」
狗塚の撃った弾が彼女の頭を貫き、彼女の体が傾く。
「え、猿間さん。」
狗塚は北村に倒れこむ
「血流しすぎだろ。歩けるか？」
「はい、猿間さんも大丈夫ですか」
「肋骨2.3本は折れてるかもな…っ狗塚」

こんなにも自分が無力だと思う瞬間があるだろうか。　
あのとき、もっと慎重に考えていればこんなことにならなかったのではないか、と。
「え」
目を開けると北村が狗塚の上に覆いかぶさっていた。北村の肺と腹、右腕左腕には血で紅く染められた指が突き刺さっていた。
ぽたっと狗塚の頬に1粒血が落ちる。
「せっかくの食事を逃がすわけないじゃない。ねぇ、早くdespairingly〈絶望して〉」
指が北村の体から貫(ぬ）かれる。
「、郁。お前だけでも、に、げろ」
「いやだ、いやです。猿間さん。おれ、」
「さっきも言ったよね。じっとしててって・・・私が順番に食べてあげる・へ」
「無理です。あなたはここで死ぬんですから」
次の瞬間彼女の首が空高く飛ばされ、空中で血しぶきをあげ破片と化した。
「夕凪ちゃん。なんとか一人は間にあったようですわ」
メイド服に日本刀のミスマッチな彼女は刀を鞘に収め、夕凪と呼ばれた少女へ渡した。
「…瀕死ね」
少女は狗塚を抱き起こし、
「大切なものを奪われて悲しい？」
悲しいよ　つらいよ　猿間さんともっと一緒に仕事したかったよ
「憎い？」
何もわからないまま、得体も知らないものに平穏な日常を奪われたんだ。憎いにきまってる。
「生きたい？」
…俺はいいから、猿間さんを助けてよ。
「残念だけど、一度死んだものは生き返れらない。どんなに願ってもね…」
それなら、俺もいいよ。猿間さんのいない世界なんて…
「甘えんな。あんたがまだ息があるのは彼があんたをかばったからだろ？救ってもらった命捨てんのか？」
おれは…
「生きろ。この根源を作った奴がいなければ、お前も彼も今まで通りの平穏な生活をしてたんだよ」
猿間さんが死なずにすんだのか…？おれは…
「... いきたい。生きてたい」
こんな辛くて、悲しい世界なんていやだ。
「…リリィ。彼と契約するわ」
「彼、童貞なのかな？」
「…それは結果次第ね。　汝、吸血鬼ユナ・アンダーグレイの下において血の契りを交わす。汝のすべては我のモノだ」
狗塚の意識は遠くへおちて行った。 ]]>
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		<dc:date>2015-04-10T17:13:10+09:00</dc:date>
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		<dc:publisher>WOX</dc:publisher>
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		<title>僕と『彼女』の八日間の夏休み</title>

		<description>ジー…ミーンミンミンミンミンジー…
むせ…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ ジー…ミーンミンミンミンミンジー…
むせ返りそうな暑さの中、手で木々をかきわけながら、森の奥へと足をすすめる。
まだ、昼間だというのに森の中はうす暗く、ぬかるんだ土をふむたび足がどんどん重くなっていく。
ふと、ポケットに入れていたポケベルがブー…ブー…と鳴りはじめ足をとめた。
《１０１０５》
画面に友人からの《今どこ？》というメッセージが表示されていた。謝罪のメッセージを送り返し、ポケベルをしまいまた歩きだした。

確か、この下り坂を下れば神社の石段が眼の前にあらわれるはずなのだが…
「ん？」
頬にポツンと水滴がおち、次の瞬間ザァァー…ザァァー…と激しい雨が降りはじめた。来た道へ引き返そうかと迷ったが、ここまで来たら神社の方が近い。ぬれた服に息苦しさを感じつつ、森の中を全速力で駆け下りる。雨と汗の混じったような滴が額を伝って目に入り込んできて、痛みにぎゅっと目を細めた瞬間「！」右足をひねり、体のバランスをくずし…
ガツンッ！　鈍いいやな音。鼻から口に広がる鉄みたいな味。地面に倒れこみ、視界の向こうの景色がかすんでいく。意識がどんどん遠ざかっていく。体がぴくりとも動かない。ただ冷静に昔、おばあちゃんが言っていた言葉が思い浮かんだ。
「天狗祭の時期には、神社の森には近づいてはいけないよ。戻って来れなくなる」
死ぬときに、こんなことおもいだすなんて…こんなことならあの子にちゃんとあやまれば　よかった…
降りしきる雨の中、次第に五感を刺激する感覚さえも、意識の中から遠ざかっていった。

１
ミーンミンミンジー…シャワシャワシャワジー…
むせ返りそうな暑さの中、僕は学校からの帰り道を歩いていた。
「暑い」
陽射しがまるで僕の頭上だけを照らしているかのように思えた。風はほとんどなくとにかく暑苦しい。数分前に体を冷やしてきたにもかかわらず、全身から汗がどんどん溢れ出す。
「あー…もう暑い。限界。歩くのも疲れた」
さらに坂を下ってしばらく行くと天狗神社までの石段が見えてきた。一段ずつしっかりと足を進める。石段のまわりは丁度木陰になっていて木々のすきまから涼しい風が心地良い。左側は大きなクヌギの木がある。夏休みに入るとよくここでカブトムシやらクワガタを捕っている親子や低学年の子供たちがいる。最後の一段をふみしめると目の前に少しばかり歴史を感じる神社が広がっていた。僕は毎日ここへ来ている。
「今日も、よく来たのぅ」
声のした方へと目を向けると、ハトにえさをあげているじぃじがニコニコしながら僕を見ていた。
「うん。今日はプール開きだったから学校に行ってきたんだ」
「そうか　そうかぁ。ここまで歩いて来てさぞかし暑かっただろう。麦茶を用意するから先に縁側に行っていなさい」
「わかった」
じぃじは天狗神社の神主だ。綺麗なツルツルピカピカな頭と、真っ白な長いアゴヒゲ。少しばかりゆっくりと話す口調はどこか品のいい感じがする。
縁側に行くと気持ちよさそうに日向ぼっこしている猫がいる。こいつの名前はじゃのめ。左目の色だけがきれいな赤色の黒猫だ。じぃじと一緒に暮らしている。牛乳が好き。僕が知っているじゃのめの情報はここまでだ。あとは不明。
あ、そういえば首輪をつけるのも嫌いだったっけ…。じゃのめも僕に気づき、眠たそうな目を僕に向け、にゃーと鳴いてどこかへいってしまった。入れかわるように麦茶をお盆にのせたじぃじが僕の所に来て腰をおろした。麦茶を手に取り、一気に飲み干す。自分で思っていたよりものどが渇いていたのだろう。じぃじと僕は夕方近くになるまで他愛無い話をした。
「そろそろ僕、家に帰るよ。椿くんが夕飯用意して待ってるかもしれないし。明日はじゃのめの好きな牛乳持ってくるよ」
「毎日すまんのぅ。気をつけて帰るんだぞ」
じぃじに手をふり、石段をテンポよく下る。ふと、大きなクヌギの木を見るとじゃのめが今度は日陰で涼んでいた。近づくと今度はチラッと僕を見て、おとなしくさわらせてくれた。のどを撫でるとゴロゴロと鳴きながら僕の手にすり寄ってきた。そのとき
「ねぇ、〔ぼく〕何してるの？」
不意に後ろから声が聞こえ、ふり返るとそこにはセーラー服に身を包んだ少女立っていた。少しだけやけた肌に肩までかかるくらいに髪。
そしてとても笑顔が可愛らしい少女だった。

２
「お姉さんはここで何してるの？」
返答に困った結果、逆に質問をしてみた。質問を返されるとは思っていなかったのか少しばかりびっくりした顔になり、次には「うーん」と言いながら考えはじめた。その間に僕は冷静に彼女を見る。身長はたぶん１５０㎝以上。彼女の着ている制服には覚えがあった確か小学校と道を挟んだ所にある中学校の制服だった気がする。
「お姉さんも、じゃのめをさわりに来たの？」
「じゃのめ…？あ、ああ！うん！そうなんだよね～」
そう言いながら、僕の隣に腰をおろす。
「[僕]は猫ちゃん好きなの？」
「うん。動物の中では猫が好きだよ。特にじゃのめは警戒心があんまりないからさわりやすいんだ…　お姉さんも猫が好きなの？」
「そうだね。好きかな…」
彼女は少しだけ困った顔をしながら言った。遠くのほうで【夕焼けこやけ】のメロディーが流れ始め、今まで僕におとなしく撫でられていたじゃのめはにゃあと鳴くと、神社のほうへ帰っていってしまった。僕もそろそろ帰らないと…隣を見ると彼女はすでに立ち上がって背伸びまでしていた。僕も立ち上がり衣服についている砂を手で払った。
「[僕]は毎日ここに来るの？」
「なんで？」
「いや、私もよくここに来るけど君には初めて会ったから」
「じぃじに会ったら、そのまま家に帰るから今日はたまたまこっちの方に来たけど…」
「そっか～」と彼女は言いながら、僕らは一緒に石段を下りた。
「私の家、こっち側なの。[僕]とはここでお別れだね。気をつけて帰るんだよ」
「ありがとう。…ねぇ、明日も天狗神社に来る？」
「え、うん。行くよ。[僕]は？」
「行く。絶対行く。また明日会おうねお姉さん」
「うん　…なんか[お姉さん]って照れくさいね、…『佐和子』でいいよ」
「わかった。さっちゃんって呼ぶね。僕は、「まぁーくーん！！」
遠くの方で僕の名前を呼ぶ声がした。椿くんだ。
「それじゃ、また明日ね。まーくん」
さっちゃんは僕に手を振り、歩いて行ってしまった。僕も椿くんの方へ小走りで向かう。椿くんは買い物袋を持って僕が来るまで待っていてくれた。
「椿くん今日の夕飯の買い出しの帰り？」
「遠くのほうでまーくんを見かけたから呼んでしまったよ。一緒にいた子は友だちかい？」
「さっちゃんっていうんだ。今日友達になった」
「そっか、よかったな」
椿くんは自分のことのようにうれしそうに笑っていた。椿くんは僕の父さんだ。普段はもの静かで優しいが、いざとなったら頼りになる男だ。まだ３０代前半なので村のおば様方にはすごく人気が高い。まぁ、元々実年齢よりは若く見える顔立ちではある。　僕は椿くんと二人だけで暮らしている。母さんは僕がまだ幼い時に亡くなってしまった。ひかれそうな猫を助けてそのまま車に追突されたらしい。でも、僕が今日まで寂しい思いをあまりしなかったのは椿くんがいてくれたからなのだと思っている。
「あ、まーくん上見てごらん」
椿くんが指さすほうを見た、そこには一番星があった。僕は一番星を見ながら明日は彼女とどんな話をしようかと考えていた。

３
降り注ぐ真夏の太陽。目を開けていられない位まぶしい。プールサイドに腰かけ、強い日差しにキラキラと反射している緩やかな流れに足を踏み入れた。川や海のようにひんやりとした心地よい冷たさではなく少しだけ体温に近い冷たさだった。でも、僕も周りの子達も今はこの冷たさが心地いい。目を閉じ、ふわっとした柔らかい風を感じる。すると近くでバシャバシャという激しい水音と女子生徒たちの黄色い声が聞こえ、目を開けそちらを見る。誰かがクロール泳ぎで勝負をしているようだ。左側のほうが一歩リードしている。
「なぁ、お前今日はどっちが勝つと思う？」
クラスメイトの友人がニヤニヤしながら僕に話しかけてきた。もうどちらが勝つかわかっているようだった。
「っていうか。誰が勝負してるの？暑いのによくそんな元気出るよね」
「お前わかってるくせに～！また関が樹にケンカふかっけたんだよ。樹に一度も勝ったことないのによくやるよねー」
「樹か。だから女子がいつもより暑苦しいんだね」
「ははっ、それを言ったら、オワリだよ！」
何がおかしいのか友人は肩を震わせながら笑っている。すると誰かの「勝負アリ！」という声が聞こえ、バシャッと水の中からプールサイドに出る音と女子たちのさらに高くなった声が聞こえてきた。
「みんな応援ありがとね。もうちょっと遅かったら、関に負けてたかもしれない」
「そんなことないよ～！樹くんの方が速かったよ！」
「ありがとね。みなこちゃん」
「え、樹くん。私の名前覚えていてくれたの？」
あ、また始まったよ。樹のナンパ。
「俺が女の子の名前忘れるわけないよ。特にみなこちゃんみたいなかわいい子は絶対忘れないよ」
キャーとまた一段と女子たちの歓声が高くなる。あー、聞いてるだけで暑苦しい。
「てめぇ、樹！勝ったからって調子乗ってんじゃねぇよ！」
樹よりも少しだけ遅くゴール地点に到着した関が樹たちに水の塊をかける。簡単に言えば逆ギレだ。
「ちょっと関！冷たいじゃない！本当あんたって頭の中も筋肉なの？」
「樹くんが迷惑してるのわかんないの？大丈夫？樹くん」
「自分でケンカふっかけて、負けたくせに。逆ギレしてんじゃないわよ！」
次々に女子たちは関に暴言を吐いていく。関もさすがに涙目だ。
「ほらほら、みんな俺のためにそこまで関を責めなくてもいいよ。それに俺、暴言吐く女の子はあんまり好きじゃないな」
それを聞いた女子たちは黙る。
「関、今日は楽しかったよ。今度も負けないから」
「…今度は俺が勝つに決まってんだろ」
どうやら仲直りしたらしい、それにしても本当に暑いな…そろそろ帰るかな。
バシャッ！バシャッバシャッ！
「おあっ！」
不意に水の塊が視界を遮った。
「まーくん。今帰ろうとしたでしょ！帰るなら俺もさそってよね」
水をかけた張本人は樹だった。片手には誰かの水鉄砲を持っている。
「…それどうしたの。樹のじゃないよね」
「関に貸してもらった」
仲のよろしいことで。数分前まで仲悪そうだったのに
樹は二年生の夏に東京から引っ越してきた。最初は無口で何を考えているのかわからない男だった。僕とは席が隣同士だったこともあってかすぐに仲良くなり、親友の称号までもらってしまった。
「別に、一緒に帰ってもいいけど。僕神社寄ってくよ」
「天狗神社か。前話してた猫に会いにいくのか？」
「まぁ、ね」
一瞬、さっちゃんの顔がよぎり、首を左右に何度もふった。
「えー、樹くん帰っちゃうの～？」
すると、一人の女子が樹の側にくる。さっきのみなこちゃんだ。
「うん。帰るよ」
「えー、それなら私も一緒に帰ろっかな？いいでしょう？」
「そんなのダメに決まってるでしょう？！」
みなこちゃんの声が聞こえたのか否か、女子たちが僕らの周りに集まる。
「ぬけがけはゆるさないから。樹くんは誰と帰りたい？」
「ちょっと、何それ？あんただって樹くんと二人だけでかえりたいんでしょ？」
「わたしだよね？樹くん」
「あたし？」
「ねぇ、私と帰ってくれるって前、約束したじゃない！」
「おいしいケーキ屋さん一緒に行ってくれるんでしょう？」
「「「ねぇ、樹くん！！！」」」
女子たちは一斉に樹を見る。彼も困った顔をしている。
「え…と、俺はまーくんと帰るから」
「「「はぁ？」」」
次に、一斉に僕を見る。ヒシヒシと伝わる女の嫉妬心。これはたぶんめんどくさいことになる。こんな晴天の下、言い争いなんてごめんだ。それなら樹を置いて行ったほうがいい。
すまない親友よ。ゆるせ。（棒読み
僕は樹をその場に置いていき、早足でその場を離れた。

４
ジーミーンミンミンジー…
「暑い」
学校から神社まではそんなに遠くはないはずなのだが、ジリジリと照りつける太陽にはやっぱり勝てない。真っ黒な短い影が足元にくっついてくる。流れてくる汗をＴシャツの袖で拭きながら歩き続ける。鳥居をくぐり、神社に続く石段を上がっていく途中からクヌギの木がある道に入った。クヌギの木の近くに、さっちゃんの姿が見えた。小走りでさっちゃんのところに行く。さっちゃんはまだ僕に気づいていない様子だ。ずっと上を見ている。少しおどろかそうと思い、彼女の後ろにまわり声をかけた。
「さっちゃん」
なるべく声の音量を大きめにして、呼んでみたのだが、反応がない。
「…さっちゃん？」
心配になり顔をのぞく。彼女はただ無表情で上を向いていた。顔は青白く見え、瞳に光がないようにも見えた。
「ッ」
僕は全身から血の気が引くような感覚におそわれた。彼女の手をとる。氷のように冷たい。
「さっちゃん！！」
僕は自分でもビックリするくらい大きな声を出した。
「…えっ、あ、まーくん？どうしたの？」
彼女は目を丸くして僕を見た。
「どうしたって…！」
言葉の途中で我に返り、冷静になる。
「…さっちゃんこそ、大丈夫？声かけても反応なかったから」
まだ心臓が落ち着かない。
「あ、ごめんごめん。ぼーっとしてた」
「そっか。それならいいけど…。そうだ、さっちゃんに会わせたい人がいたんだ」
「会わせたい人？」
「うん。天狗神社の神主さん」
「わしがどうかしたか？」
僕とさっちゃんは声のしたほうに反射的にふりむいた。そこには、じゃのめを抱きかかえたじぃじがいた。
「立ち話は、おいぼれにはちと、辛いからのぅ。まぁ、神社まで来なさい」
僕とさっちゃんは顔を見合わせ、じぃじのあとを追った。
縁側かと思いきや、渡り廊下へと続く、広間に案内された。用意された麦茶を飲みながら、じぃじが来るのを待つ。そのあいだなぜか僕たちは一言も声を交わさなかった。じぃじが来て、僕は口をやっと開けた。
「じぃじ。彼女は昨日帰りに会ったさっちゃん…」
「知っちょるよ。この子はここに住んでるからのぅ」
「え？」
僕は口をポカーンと開け、まばたきを繰り返す。
「そうなんだ…。ごめんね昨日、なかなか言い出せなくて…」
さっちゃんは困った顔をしながら言った。
「そういえば、そろそろ天狗祭だったよね？」
じぃじはお茶をすすりながら、笑顔でうなずく。
「天狗祭かー。もうそんな時期なんだ」
さっちゃんはそう言いながら遠くを見る。
「なつかしいな。小さい頃はよく行ったな…」
「さっちゃん、あんまりいかなくなったの？」
「うん。なかなか時間がなくてね。でも今年はゆっくり祭とか行ってみたいな」
「それなら一緒に行こうよ」
じぃじはお茶を飲み終わってしまったのか、お茶を注いでいる。
「天狗祭のときは妖怪が出るんだって！まぁ、ウワサなんだけどね」
ガッシャーン
じぃじのほうを見ると、お茶をひっくり返してしまったようだった。湯のみがパカッと割れている。
「だ、大丈夫ですか？！」
さっちゃんはすかさず、じぃじの手の平を見て怪我をしていないか確認したあと、台所に向かい台ふきでこぼれたお茶をふきはじめた。僕はじぃじはそれを茫然と見ていた。
「…天狗祭の日は丑三つ時になる前に家に帰るんだぞ」
「え、なんで…」
じぃじはいつになく真剣な顔をして僕を見る。
「丑三つ時になったら、子どもは外に出てはいけない。妖怪が出てきて子どもを連れ去っていってしまうからね。だから、出ちゃだめじゃよ？」
僕はただうなずくことしか出来なかった。あんなじぃじの目は見たことがなかった。あんな冷たそうな黒い瞳なんて。
神社までの帰り道をさっちゃんと一緒に歩く。結局僕の家の前まで一言もしゃべらなかった。
「…まーくん。さっきの返事だけど、天狗祭のとき一緒に屋台とかまわろっか？」
「…うん！」
「それじゃ、当日の夕方にクヌギの木の下に集合ね」
そう、２人で約束を交わし、手をふって別れた。彼女の後ろ姿を見つめながらなぜか胸が少しだけ苦しくなった。

５
天狗祭当日。
待ち合わせ場所に行くと、先に着いていたらしい浴衣姿のさっちゃんが僕を見つけ、笑顔で手を振ってくれた。
あの日から今日まで神社へは行かなかった。プールの授業が終わると家まで真っ直ぐ帰った。どうしてもじぃじに会えなかった。神社に向かおうとすると、どうしても足が止まってしまうのだ。
「さっちゃん、浴衣似合ってるね」
「ふふ、ありがとう」
次第に薄暗くなりゆく坂道を、二人並んで歩く。さっちゃんの浴衣は深めのブルーにリンドウの花が描かれた綺麗な柄だった。なんだか綺麗すぎて、横にいるのが少しだけ恥ずかしくなってきた。いつもなら静まり返り、ひっそりと夜に染まるだけの広い砂利道。そこに、今夜だけ赤や橙色に彩られた屋台テントが鮮やかな光の列となって、浮かんでいる。そんな村の一夜限りの晴れ舞台に臨み、ひしめき合うひと、ヒト、人…。人だかりをかき分けながら進む。絶え間なく鳴り響く大太鼓。焼き物の芳しい匂いと共に肌に当たるけむたい暖気。通りすがりに触れ合うにこやかな顔。威勢のいい呼びかけ声。たこ焼き、焼きソバ、リンゴ飴。チョコバナナ。金魚すくいに射的・・・。
僕とさっちゃんはいろいろな屋台をまわった。
「まーくん。あのお面買っていいかな？」
さっちゃんは、一つのお面を指さす。それは狐のお面だった。
「私ね、狐のお面の雰囲気が好きなんだ～。すいませーん、この狐のお面下さぁーい」
「はい。５００円です」
この声には聞き覚えがあった。椿くんだ。
「椿くん？！なんでお面売ってるの？」
「はは・・・、お面のおじさんに店番まかされちゃってね・・・まーくんの友達？」
椿くんは佐和子と僕の顔を交互にみる。
「あの、私…」
「あ、そんな固くならないでね？僕はまーくんの父の椿という者です。よろしくお願いしますね」
一瞬、さっちゃんの目を見開き、下を向いた。ずっとさっちゃんを見ていた椿くんは、「ああ」と言いながら、手をポンとたたいた。
「君の顔、誰かに似てるなーって思ったんだけど僕の妻の『サコさん』に似てるんだ」
すごいねー。こんなこともあるんだね。と椿くんはニコニコしながら言っている。僕はなぜか胸騒ぎを感じた。

６
トン・・・パラパラパラ・・・
山も森も、眼下に佇んでいるはずの民家も。日中はそれぞれがそこにあることで認識できる、高さも遠さも近さも、全てが、その感覚さえも一緒に空と同じ夜色にぬりつぶされる。そんな天地の区別がない、一面見渡す限りの花火。
椿に会った後、さっちゃんは黙ったままボンヤリとしているようだった。
トン・・・パラパラパラ・・・
横目でチラッとさっちゃんを見る。だいぶ暗闇に目が慣れたとはいえ、その表情まで見るのは容易じゃなかった。相変わらずちょっとうつむき加減でボンヤリとしている。その姿はとても花火を見ているような感じではなかった。
「・・・さっちゃん。なんだか元気がなさそうだけど、大丈夫？もしかして人に酔った？」
何か話しかけなくては間がもたないと思い、さっちゃんに声をかける。
「・・・大丈夫、何でもないから」
遠くの花火の音にさえかき消されそうな小さな声。それ以上僕は何も言えなかった。
トン・・・トントン・・・
「ねえ、まーくん」
パラパラパラ・・・
「何・・・？」
タタタン！タン！
「椿さんってこの村で育った人？」
激しく交差し乱れ咲く夏の花。
「なんで、　そんなこと聞くの？」
タン！タタタン！
「私ね、椿さんのこと　　　　　　　　　！」

トン！パラパラ・・・トン！

さっちゃんの言葉を遮るように鳴り響く花火の音。でも僕は聞こえなかったさっちゃんの言葉の意味がわかってしまった。うるんだ瞳、ほのかに桃色に染まる頬。握りしめた手が小刻みに震えていた。
「・・・どうして」
僕は俯いて、口を開く。
「どうして椿くんのこと、僕に聞くんだよ　そんなの・・・椿くんに聞けばいいだろ」
ドッ・・・ヒュルヒュルヒュルヒュル・・・
自分で何を言っているかわからない。ただ感情だけが、溢れてくる。
「・・・さっちゃんなんて、知らない」
・・・ダンッ！ン・・・ン・・・ン・・・
山一つ分をも覆ってしまいそうな大輪の花が、胸を突き抜けるような大音量とともに一気に開く。一直線に伸び空一面に広がった光の花びらが、やがてキラキラと星屑のように輝きながら、音を立てゆっくりと落ちてゆく。僕はそのまま、さっちゃんを残し、家へと走って帰った。さっちゃんの呼び止める声が聞こえても、後ろを振り返らず、ただただ無我夢中で走った。
家に着き、部屋に戻ると明かりもつけずに敷いてあった布団にうずくまった。

７
夢を見た。
神社の鳥居のそばで泣いている男の子。僕と同じくらいの年に見えるけどこんな子会ったことも見たこともない。男の子の傍にはセーラー服を着ている女の子がいた。彼女は男の子の目線の位置までしゃがんでいた。
かすかに声が聞こえてきた。
「ここにもないみたいだね・・・ごめんね、つばきくん　　　見つけられなくて」
「ううん。お姉ちゃんが悪いんじゃないもん。僕がちゃんと持ってなかったから・・・」
「・・・神社の裏の森の近くもお姉ちゃん探してみるから、だから泣かないでね、つばきくん」
彼女は男の子の頭を優しくなでていた。僕の位置からは彼女の顔は見えない。
「じゃあ、僕も裏の森一緒にさがす・・・！」
「それはダメ。つばきくんはもう一度、鳥居の近くをさがして」
「・・・うん。わかった。ありがとう、　　　　ちゃん」
意識がどんどん夢から離れていく。
ジィィ・・・ボーンボーン・・・
ヤケに大きく聞こえてくる柱時計の音に重たいまぶたを開いた。布団の上に仰向けになり、天井を見ながらつぶやく。
「・・・二時くらいかな」
変な夢だったな・・・。あの２人は誰だったんだろう。同時にさっちゃんの顔が思い浮かんだ。どうしてあんなこと言っちゃったんだろう、冷静に考えられるようになり、さっちゃんに会って謝りたくなった。僕はそっと音をたてないように玄関まで行く。ドアノブに手をかけようとしたとき、じぃじの忠告が頭によぎり、ドアノブをにぎる力が弱くなる。一瞬とびらを開けようか迷ったが、どうしてもさっちゃんに会わなくてはいけないという強い力が僕の背中を押した気がした。外は月の光が青白く僕の足元を照らした。僕は、神社へと続く道を小走りでかけていった。自分の足音だけがヤケに大きくひびく。
しばらく行くと、十字路にたどりついた。そこを左折してその道をまっすぐ行けば、道路わきに神社への目印である小さなお地蔵さんが立っている。
「あれ？」
曲がると、見たことのない原っぱが広がっていた。遠くの方で、ドンドコ・・・カンカン・・・という音とかすかに笛の音色が聞こえてくる。まだ祭をやっているのだろうか。こんな夜遅くまで、踊りをやっているのはおかしい。それにこの原っぱも見たことがない。しかし、このまま立ち止まっててもしょうがないと思い、そっと音を立てないように近づいた。そこには、人じゃない何かがいた。それは本でしか見たことのない妖怪たちだった。
《この村は昔と変わらんな。唯一変わったのはあのー・・・まぶしい棒みたいな・・・》
〘火車さん。それは“街灯”というものです。あの“街灯”が増えて昔みたいに人間にいたずらできなくなってしまいました。さみしいことです〙
〈俺は子供が食えなくなったのが残念だな～子供の肉はやわらかくておいしいんだけどな～〉
〘牛鬼、そんなことカラス天狗のダンナが聞いたら、怒りますよ・・・〙
〈はいはい、もう言いませんよ。山童は本当にカラス天狗のダンナがこわいんだね～〉
〘・・・・〙
《まあ、久しぶりの私たちのうたげだ。今日は楽しもう》
草の影から彼らの会話を聞いていた僕はあの妖怪たちに見つかったらやばいと直感的に思った。とりあえず音をたてないようにこの場から離れよう。ゆっくり・・・ゆっくり・・・。
僕の足元で木の枝が割れる音がした。それを頭で理解する前に、Ｔシャツの襟を持ち上げられた。
〈何コソコソしてるのかな？君、人間の子供だよねぇ？〉
僕を持ち上げたのは頭が鬼のようで、体は牛に似た妖怪だった。周りの妖怪たちは僕を見てザワザワっと騒ぎ出す。
《まさか、子供が１人紛れ込んでるなんてな・・・。どうするんだ牛鬼》
〈そんなの、喰っちゃえばいい〉
全身から、一気に血の気が引く。頭の中もぐちゃぐちゃですでにパニック状態で、冷静に判断ができない。
〘まってください！〙
〈・・・なんだよ。お前は俺らの正体が人間たちにバレてもいいっていうのかい？〉
〘・・・いえ。ただ、独り占めしないでいただきたいだけです。喰べるなら、人数分分けていただけますか？〙
さっきまで、子供を喰べるのに抵抗を占めていた山童さえも、すでに僕を見る目は血に飢えた目だった。ああ、だめだ。このままじゃ食べられちゃうよ。さっちゃんにもじいじにも、まだ謝ってないのに。椿くんだって、きっとすごく悲しむ。椿くんを１人になんてさせたくないよ。さっちゃんとだって、まだ、一緒にいたいのに・・・！
ぎゅっと固くまぶたを閉じ、来るであろう激痛を覚悟していた。しかし、何分持っても痛みが来ない。そっと目を開くと、牛鬼達がウーウーとうなりながら、うずくまっていた。すると頭上で男の声がした。
「お前らは何をしている。あれほど子供をおそうなといったのに・・・」
僕は鳥に似た妖怪に抱きかかえられていた。なぜか、怖いと思わなかった。むしろ、なんだか懐かしい感じがした。
「・・・あれほど夜中に外へ出歩くなといったのに・・・」
「・・・え？」
「元の世界に送ってあげよう。君は少し眠っていなさい」
そう言われ、だんだんまぶたが重くなり、眠気がおそってきた。そのまま僕は、深い眠りに落ちた。
８
また夢を見た。
ミーンミンミンジー・・・とせみの鳴き声が聞こえる。病室のベットに誰かが横になっていた。ベットの傍らにある椅子には、以前見た、鳥居で泣いていた少年が座っていた。少年の側には、４０代ぐらいの女性が立っていた。
「・・・つばきくん毎日　　　の様子見に来てくれてありがとね」
声が少しだけ聞きにくい。
「僕のせいだから・・・僕があんなもの落とさなかったら、　　　ちゃんはこんなことにならなかったのに」
「そんなことないわ。つばきくんは全然悪くないわ。だから自分を責めないで・・」
窓の外が赤くなると、部屋の中はいよいよ暗さを増していき乱れることなく一定の波長を描くモニターの赤い線が暗い部屋の中で浮かび上がる。機械装置から伸びる管や線をたどっていくと、そこには酸素マスクを装着され、
「・・・僕は佐和子ちゃん起きるまでここに通い続けます。何年も・・・何十年も」
まるで人形のように真っ白な顔で眠るさっちゃんの姿があった。
そこで、バッと目覚める。すると、そこは原っぱではなく、天狗神社の風景が広がっていた。
「まーくん！！！」
近くでさっちゃんの声がして、上半身だけ起こす。さっちゃんは「よかった・・・よかった」と言いながら、僕を抱きしめる。
さっちゃんのそばには、さっきのカラス天狗とじゃのめの姿があった。
「・・・やっぱり、カラス天狗はじぃじだったんだ。会うのはじめてのはずなのに、全然そんな気がしなかったから」
「ふー、あれほど忠告したのに。本当に子どもというのは、大人の言うことを聞かん・・・」
じぃじはあきれたようにため息を吐く。
「ごめんなさい・・・。あと助けてくれてありがとう」
じぃじはフッと笑い、神社の境内にじゃのめと一緒に行ってしまった。多分気をつかわせてしまったのだろう。
さっちゃんは涙は止まったが、まだ目元は赤い。
「・・・さっちゃんに聞きたいことがある」
「私も、まーくんに言わなくっちゃいけないことがあるの・・・」
僕はさっちゃんに夢で見た話をした。さっちゃんは全て事実だと言った。
「私、あのとき急いでて、そのまま足をひねって頭を打ったの。それで気づいたらここにいた。最初はビックリしたわ。自分がまさか２０年後タイムスリップしたなんて。あの日まーくんと別れて、自分の家まで行ってみたの、やっぱり少しだけ村の雰囲気も変わってて２０年前にそこにあった私の家には、ほかの家族が住んでた。それで、この神社に戻ってきたらあのおじいさんがすべて教えてくれた。でも、それでもやっぱり少しだけ信じられなかった。だって、まーくんがつばきくんにそっくりだったから。だからどうしても信じられなかった。でも、お祭の日に大人になった椿くんを見て、やっぱりタイムスリップしちゃったんだって…そこでやっとわかったの。そして同時にこの世界にはもう自分がいないこともわかった。椿くんにはもう奥さんがいて、まーくんのような優しい子どもがいる・・・」
さっちゃんは目に涙をためながら言った。
「このまま、元の世界に戻らないでここにずっと居ようかなって考えた。だけど、やっぱりまーくんを見てるとつばきくんに会いたくなっちゃうんだ。だから・・・だから私は帰りたい、元の世界に」
僕は何も言えなかった。彼女は椿くんや僕を見てるんじゃない。つばきくんを見てるんだ。
「・・・戻る前に見つけたいモノがあるの。２０年もたってるから、本当にあるかはわからないけど」
「見つけたいモノって？」
さっちゃんは懐中電灯をつけながら言った。
「つばきくんが神社で落としたっていうプラモデルよ」
「プラ・・・モデル？」
「あれ？この時代にはないのかな・・・？えーと、車みたいなオモチャよ。つばきくんがね、はじめて祭の屋台の射的で当てたモノなの。普段そんなに感情を表に出す子じゃなかったけど、当てた時は本当に喜んでたな・・・」
ザクッ、ザクッ、ザクッ、ガサッ、ガサッ、ガサッ、
「でも、数日後にね、友達と神社で遊んでるときに、友達にプラモデルを貸したっきりなくなっちゃったの。なくした友達がいけないはずなのに、つばきくんはその子を責めたりしなかったの。ただくちびるをかんで、下向いてた。だから、私が探し出してやろうって思ったの！」
さっちゃんはつばきくんについて、僕に色々なことを話してくれた。僕たちは神社の周辺や、裏山のほうまでくまなく探したが、結局見つけることができなかった。
「二人とも、さぞかし疲れたじゃろう？ほら、麦茶でも飲んでちょっと休みなさい」
じぃじはいつもの姿に戻っていた。
「ごめんね、まーくん。こんな夜中に探すなんて無謀だった。それにやっぱり２０年もたっちゃってるし・・・見つからないか」
はぁーとさっちゃんはため息を吐く。
「うむ。プラモデルというモノは知らないが、２０年前にじゃのめが拾ってきたモノの中で車型のなにかがあったような・・・。これだ。これこれ」
じぃじは、奥の部屋からふろしきに包まれたモノを持ってきた。さっちゃんはそのふろしきを片方だけ解くと、その中には色々なガラクタ達があふれてきた。その中に赤いプラモデルがあった。
「おじいさん！これです！このプラモデルです！！」
「よかったね！さっちゃん」
「うん！」
さっちゃんはプラモデルを持つと、嬉しそうな顔をしてプラモデルをなでていた。

９
外に出ると、朝日が山から少しだけ出ている途中だった。僕とさっちゃんは並んで、クヌギの木の下にいた。あの日と同じ場所に。
「・・・もうお別れなんだね」
「うん。あっちに戻ったら、ここで過ごした記憶は消えちゃうんだって。おじいさんが言ってた」
「大丈夫。僕は絶対忘れない。さっちゃんのこと」
さっちゃんの体はどんどん薄くなっていく。もう本当にお別れなんだ・・・。さっちゃんは僕に抱きつく。
「・・・ありがとう。君に会えてよかった。私・・・記憶がなくなったとしても、まーくんにもう一度会いたい」
さっちゃんは顔をくしゃくしゃにしながら言ってくれた。
「うん・・・！また会おうね！」
さっちゃんは笑顔のままうなづき消えた。
僕は最後まで笑顔のままでいれたんだろうか
これが僕の最初で最後の初恋だった。

「まーくん！！」
あのあと、椿くんが僕を探しに、神社まで来た。最初はすごく怒られたけど僕を強く抱きしめ、「無事でよかった」とつぶやいた。　僕も負けずに抱きしめ返した。
家までの帰り道、椿くんは“サコ”さんについて僕に話してくれた。
「　“サコ”さんと僕は幼なじみだったんだ。僕が唯一の宝物のプラモデルをなくしてしまったときも、一緒に探してくれたんだ。　“サコ”さんには、あのとき申し訳ないことをしてしまったんだ」
「・・・ねえ、ずっと気になってたんだけど　“サコ”ってあだ名？本名？」
どうしても聞かなくてはいけないと思った。さっちゃんは元の世界に戻って、つばきくんとどうなってしまったのか・・・。
「そうだな・・・。　“サコ”は僕がつけたあだ名だよ。本名は“佐和子”さんって言うんだ。　“サコ”さん呼びになれてしまって、ずっとこのまま読んでいたんだよ」
「佐和子・・・さん」
さっちゃんだ。そっか、僕のお母さんはさっちゃんだったんだ。僕はホッと胸を撫で下ろした。
「佐和子さんはずっと眠ったままだったんだ。でも３年たった頃にね、目覚めたんだ。医者も奇跡だって・・・佐和子さんの片手にはあのとき僕が無くしてしまったプラモデルがあったんだ。泣きじゃくりながら、ごめんねありがとう。ってこっちのほうが謝らなくちゃいけないのにさ、そのときにね改めてこの人と一緒にいたいって思ったんだ」
椿くんは照れながら、僕に話していた。僕もなんだかうれしくて笑ってしまった。

１０

￤　３年後　￤
ジー・・・ミーンミンミンミン
セミの声。
ミーンミンミンミンジ―・・・
むせ返りそうな暑さの中、僕は神社へと向かっていた。
一段ずつ、しっかりと足を進める。石段のまわりは丁度木陰になっていて木々のすきまから涼しい風が心地良い。最後の一段をふみしめると目の前に少しばかり歴史を感じる神社が広がっていた。
「おお、久しぶりじゃな、雅弥（まさや）」
声のしたほうを向くと、じゃのめとじゃれているじぃじがいた。
「うん。久しぶり。じぃじも元気だった？」
「わしは、いつでも元気じゃよ。ッイテテ・・・」
じぃじは腰をこぶしでポンポンたたく。
「はは、本当無理しないでよ。もうそんなにわかくないんだから。ね、カラス天狗さん」
「雅弥。その名前で呼ぶな」
あれから３年の月日がたち、俺は中学生になった。あの日妖怪にあったことは鮮明に覚えている。でも、それを誰かほかの人間に言うつもりはない。
「雅弥ももう受験生か。どこの高校いくんじゃ？」
「隣町の高校。そのあと医学学びに東京の大学院行くよ」
「ってことは、もう村には帰って来ないってことか？」
「違うよ、ここは俺のふるさとだ。ちゃんと戻ってくるよ。だからそれまで神主やっててよ？じぃじ」
俺はそれを言って、石段を駆け下りた。
途中で左に曲がり、クヌギの木に近づく。

全てはここからはじまった。
それは、俺にとって、忘れられない夏で、さっちゃんとの最初で最後の思い出の夏だった。
今の俺を見たら、なんて言うんだろう。
きっと君は、微笑んでくれるだろう。
あの日と変わらない笑顔で。

おわり

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